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後世に残したい日本の伝統的な暮らし

後世に残したい日本の伝統的な暮らしトークショー

3月25日に開催したICCA POP UP STORE特別トークイベント。
料理研究家であり、華道家でもある、そして日本文化の伝道師としてもご高名な松本栄文先生に『後世に残したい日本の伝統的な暮らし』をテーマにお話をしていただきました。

会の雰囲気もお伝え出来るように書き起こしの形式で3回に分けてお届けいたします。

■第1回 目次
和のある暮らし
本当の意味の和食とは
お刺身は500年前からある伝統的な食べ方
お醤油にお刺身をつける理由
日本人は農耕民族?狩猟民族?それとも。。

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後世に残したい日本の伝統的な暮らし

松本栄文先生トークイベント

酒井「それでは、本日は”後世に残したい日本の伝統的な暮らし”というテーマで暮らしというのを軸にお話をお願いいたします。」

松本先生「今、私、初めてこの会のテーマを聞きました(笑) はい、暮らしですね。

ICCAの家具もそうなのですが、いいものは時代を超えていいもの。いいものは飽きがきません。昔の家具はいい木を使って作られているものが多いので、とても貴重な木材で作られたものも少なくありませんね。

現代の人は良いものを見てきていないので、その活かし方を知らない。良いものがあっても通過してしまい、悪いものでも小洒落た演出でいいものだと思いこんでしまうということもあります。

今日は、ものの目利きではございませんが、日本人の原点としてその価値観に気づく会にできればと思います。」

和のある暮らし

 

和のある暮らし

松本先生「和という言葉があります。和っていったいなんでしょうか?
和を”日本的な”と捉えている方もいらっしゃいますが、これは大きな間違いです。

和食、和服の和というのは、禾(のぎへん)に口(くち)と書いて和と読みます。
禾というは稲穂の穂が実って垂れている、この稲穂の一本の穂のかたち、これが転じて禾にかわっています。

口は一つのお米を栽培する田んぼの形です。田んぼが作られたことで人々が永住して農作業をやるようになり、部落ができる。するとそこをめがけて多くの人たちが住み着いてくる。異なる地域性を持った人たちが集中します。

そうすると異なる文化と文化がかさなりあって新たなものが生まれることになる。なので、和というのはひとつのものの固定概念を伝えるのではなく、ひとつの民族の形・思想のもとに、異なる文化と異なる文化をブレンドさせる、そういう意味を持っています。

なので、和の漢字がつく言葉は、調和、融和する、和える、ぜんぶブレンド。これが一つになっていく和ということ。

和というのは、日本人が異なる半島、大陸、他の国々からきたものを否定するのではなくその価値を尊重しながら自分流にブレンドしてつくっていくこと。これを和といいます。

それが大きな日本の拠点で、昔、大和(やまと)と言いました。大きな和と書いて大和(やまと)。奈良というのは古都、都でした。都ゆえに多くの異国文化が交わります。だから文化が大きく交わる拠点、これが大和だったのです。」

 

本当の意味の和食とは

松本先生「和食は異なる文化と文化とのブレンド。そのため、和食は正式なことばでいうならば、ショートケーキとか、どらやきとか、カステラ、ラーメン、焼き餃子、焼きそば、ナポリタン、とんかつ・・これ和食です(笑)。

みなさんがイメージする和食は日本料理なんです。日本料理は、いまから500年前の安土桃山時代よりも前の室町時代、ちょうど足利将軍家が京都に幕府を開いた時代。その前後に作られたもてなし料理、これを一つの核として今日にいたるまでずっとつくっているのがいまの会席料理や日本料理と言われるものです。」

 

お刺身は500年前からある伝統的な食べ方

松本先生「日本料理の代表はお刺身です。生のお魚にわさびを付けて醤油で食べたのが500年前。なんとお刺身は500年前からの伝統ある食べ方なんです。

なぜ、そういう食べ方をするようになったかというと、もともとは塩漬けしたお魚を薄くきって酢で洗い、それを食べるのが刺し身のはじまり。

それがさらにお客さんが来るようになると、そんな塩漬けしたものよりも、あなた(ゲスト)のために日持ちしない生魚をかき集めてもてなした。っと主人は恩着せがましくやりたい(笑)。

それが分かるからお客人は食後にご馳走様という。ご馳走様というのは馬を走らせると書きますよね。馬を走らせてわたしのためにわざわざ食材をかき集めてくれた。それに対して敬意を持ってご馳走様という。

だから、昔、塩漬けの魚じゃなくて生の魚をお出しするのはとても高級なことでした。

そういう風に生魚をだすようになると、当時は保存状態はよくない。さらに昔の人は川魚を食べていました。よく食べられていたのは鯉や鱒、うなぎ、ふな、鮎もそう、川魚。川魚は海の魚と違って体温が少し低い。

体温が低くて川だから寄生虫が多い、寄生虫が多いということは虫下しを起こす。だから野草で殺菌作用の強いもの解毒作用の強い有用植物といわれるものと組み合わせている。だから鮎には蓼(たで)がつく、鯉の洗いにはわさびがつく。これが500年前のもてなし料理からはじまった料理です。それがいまでもお刺身にはずっとわさびがついていますね。」

 

お醤油にお刺身をつける理由

松本先生「お醤油をつけるようになった理由は、お醤油はアルカリ性です。お魚は筋肉だから酸性。アルカリ性と酸性がくっつくと中和されますよね。酸性が強い食材は、お醤油だけでは中和できないから、アルカリ性の強い薬味を添えて中和しようとする。日本人は中和した味をもっとも愛する民族なんです。

だからかならず肉類には、アルカリ性のものを添える。だから必ず薬味を添える。これが日本料理特有の薬味を添えるという文化になってくるわけです。」

 

日本人は農耕民族?狩猟民族?それとも。。

松本先生「日本国連の民俗学に関する有識者会議が開かれた時に、世界の地球上に住んでいる民族を狩猟民族なのか農耕民族なのか騎馬民族なのか分類することになって、マップをつくることになりました。

日本人は農耕民族かとおもわれましたが、それに区分されなかった。かといって狩猟民族でもない、馬に乗ってあちこち点在して騎馬民族みたいに暮らしているかというかというとそうでもない、日本人だけ世界で唯一例外だったんです。

結果、騎馬的農耕複合民族という戒名のようにとって付けられた民族に区分されました。(笑)。

一つの農業として永住する、一つの場所に定住して暮らすというのは農耕民族、だけれども農耕民族は新しい文化が入ってくることを拒みます。自分の持っている文化が侵されることを嫌うんです。でも日本人は拒絶しない。実は、拒絶しない価値観を持つ民族というのは騎馬民族特有なんです。さらに漁師がいて、またぎもいる、ということで狩猟民族的なこともある。なんだこの民族はということで。日本人だけはどの民族にも該当しないというのが今から18年位前の会議で使われるようになりました。いまはどうかはわからないですけれども。」

松本先生「でも、このような流れをずっと見ていくと、和食の和、和服の和、和というのは、日本特有な価値観で収めたものであるというのが、和を捉える正しい解釈なのかなと私は思っています。」

 

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