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後世に残したい日本の伝統的な暮らし2

松本栄文日本の伝統的な暮らし

3月25日に開催したICCA POP UP STORE特別トークイベント。
料理研究家であり、華道家でもある、そして日本文化の伝道師としてもご高名な松本栄文先生に『後世に残したい日本の伝統的な暮らし』をテーマにお話をしていただきました。

会の雰囲気もお伝え出来るように書き起こしの形式で3回に分けてお届けいたします。

第2回 目次
日本人の美意識と十二単
日本の伝統的な人形と医学
古くから伝わる花粉症予防
七草粥の正しい作り方

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日本の伝統的な暮らし

 

日本人の美意識と十二単

松本先生「十二単(じゅうにひとえ)というのは、12枚衣を羽織るから十二単ではありません。十二分に衣類を重ねるというのが十二単。

当時の日本の染色技術ではグラデーションを作るのが難しかった時代です。日本人の美意識の考え方でいくと、自然界の草花の模様を着こなすというのが最大のオシャレと考えていました。

たとえば十二単で言うと、外側を緑色の羽織を着るとすると、その内側はちょっと黄緑色、その内側はちょっとピンク色、で一番奥にはちょっと赤みの強い色にする、そうすると何に見えるかというと、菖蒲の葉になってくる。

菖蒲の葉は上の方は緑が濃くてだんだん色が薄くなり根の方になると赤みがかってくる。これを着こなすことに美的をもった。かつ菖蒲は香りがあるから厄除けという意味合いもありました。」

 

日本の伝統的な人形と医学

松本先生「以前、人形職人とお話ししたことがありまして。現代の人はお雛様もかざらない、端午の節句の鎧甲冑も飾らない、酷いのは長女に買ってあげたものを次女にも使いまわしをすると。こんなことやっていたらお人形屋さん儲からないでしょと言ったら、儲からないと。日本の伝統的な人形は医学が発展すると売れなくなるらしいんです。

だって七五三。今となれば女の子が3歳を越すのは当たり前、でも昔は3歳をこせなかった。男の子、5歳を迎えるのは当たり前、昔は5歳までいくのは大変でした。

私は、子供の頃、ちょっと世間と違う七五三の形なのかもしれませんが、私が生まれて70日目くらいのときに祖父が七五三のときに着る小さい装束の羽織をプレゼントしてくれました。なぜかというと、昔は5歳まで育つのが本当に難しい時代だったからこそ、この子が健康に5歳になったとき、袖を通してもらえる服を先にプレゼントしてしまう。これを着ることを着袴(ちゃっこ)の儀といいます。

装束を着て、碁盤の上に立ってぴょんと飛び降りることを深曽木(ふかそぎ)の儀と言います。たまに天皇家の皇族の方々の儀式を見る機会があるかもしれませんが、これは皇室だけの儀式ではなく、昔は神道に関わる人達は皆やっていました。皇室、貴族・武家だけでもない。というぐらい当たり前に生まれて育つというのがない時代だった

現代は幸せすぎる暮らしですが、日本は昔はとてもまずしかったので必死に生き抜いていたんです。」

 

古くから伝わる花粉症予防

松本先生「現代の人は花粉症の人多いと思います。
最近、花粉症で土筆(つくし)をひろった人いますか?

土筆は袴をとって佃煮にしたりしますでしょ?あれ花粉症対策にいいんですよ。
現代人は土筆食べないでしょ。だから花粉症がなおらない。

昔からの漢方薬として、土筆をとってそれを袴とって乾燥させる。かりかりになったら粉にして、それをお湯に小さじ一杯くらい入れて飲むというのが昔からの花粉症予防になります。昔から東洋医学の中にある方法です。

日常の当たり前にあるものから私たちはヒントを得て暮らしていました。今はマスクがあるからそれで予防しようと。当たり前の暮らしだったものが当たり前ではなくなってきていますね。」

 

七草粥の正しい作り方

松本先生「七草粥の七草、最近スーパーでよく見かけるようになりました。5〜10年前はあんなに陳列されていなかったですよね?

なぜ七草粥を食べるのかご存知の方いらっしゃいますか?

七草粥を作る時に昔は、七草囃子(ななくさばやし)というお囃子(はやし)をふかしながらお粥をつくっていました。七草というのはまな板の上にすりこぎの棒でいいので棒をもってきて、七草を”七草なずな唐土の鳥が、日本の国にわたらす前に、すとととん、すとととん”と言ってお囃子をやるんです。

この”七草なずな唐土の鳥は”というのは唐の国の鳥、つまり中国からくる鳥、なにかというとインフルエンザのことです。

お正月明けの1月2月、季節がかわるこの時にインフルエンザがすごく流行りますよね。冬場はビタミンA、カロチン、ビタミンBの摂取量が落ちやすい、だから体の生理機能が停滞しているからこそ七草の若葉の生命力、ビタミンを体内に入れることによって保つ、復活させる、それでインフルエンザ予防に努める。これが七草の由来です。だから七草粥は下茹でなんかしたらビタミンはこわれてしまう。とんとん叩いたものを、茹でたお粥に入れて予熱で火を加えていく。これが正しい七草粥の作り方です。」

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